はてなに法務部がない理由

昨日のホッテントリに入ったこの記事の中に書いてある記載が、一部の人達のブコメで話題になっている。

代理人落合洋司弁護士によると「はてなは法務部も無いし、はてなが直接開示するという前例は無いので、開示は遅くなります」とのことです
株式会社はてなに、勝訴しました - 悪の最新情報


私は、以前からはてなには「法務部」はない*1と思っていた。なぜなら「部」とするには、普通に考えれば、少なくとも3人体制以上は必要だろうから。このコメント中に、「はてなには法務担当はいない」とは一言も書いてないので、もしかしたら法務担当はいるのかもしれない。ただ、正直、専任法務がいるようには見えないので、実際、法務部どころか専任の法務担当もいないんじゃないかと思うけど、これは私の推測にすぎない*2


ベンチャー(というか中小企業というか)は、まず売上を立てることが第一だ。だから草創期は、コアメンバーがなんでも自分たちでやる。そして、少しお金を稼げるようになるとお金を管理する人が欲しくなり、経理担当を雇用する。そして更に会社が順調に育ってくると、その次のステップとしては、株式会社化したり*3各種保険関係だったり就業に関するルールだったりをなんとかしようかなと、仕組みを整備しようとする。その為に、人事総務担当を雇用する。
このレベルで、大体、10人超30人未満前後というところが多いんじゃないだろうかと*4。法令周りによほど注意しなければならないビジネスでない限り、この時点で専任法務を雇用することは、あまりないと思う。

ベンチャーが、専任法務の雇用を検討し始める場合は、

  • 省庁周辺から行政指導的なことを受けたり注意されたりした
  • どこかの企業から、権利侵害ということで内容証明を受け取ったりその他厳しいお叱りを受けた
    この2つのうちのどちらかがあって、法務がいないのはそろそろムリかなと感じ始めた
  • 上場を検討し始めた、または、検討まで行かなくても意識し始めた

このうちの3つ*5の可能性が高いんじゃないかと思っているのだけど、実際はどうなんだろうか。

ベンチャー企業が専任法務の雇用を検討し始めるにあたっては、「契約案件やコンプラ関係案件等の件数が異常に増えて、兼任で処理している人の本業を圧迫し始めた」という可能性もあるだろう。けれど、1人雇用するのに1か月仮に25万円*6の給料だとしても、保険料も会社が一部負担するだろうからかかる費用はそれだけでおさまらないし、弁護士の顧問料はミニマムでも(安い場合で)5万円前後*7からスタートが多いと思うので*8、1人を雇用するより顧問料の範囲の5万円をオーバーしても追加タイムチャージを払う方が安い*9
だから、残りの可能性としては、

  • 弁護士に払うタイムチャージより人を雇用するほうが安上がりになった場合*10

になる。

なので、専任法務の雇用について、個人的には、50人規模を超えて初めて「どうしようかなぁ」と思い始め、70人規模になる前後でその会社のリーガルリスク感度の高低*11によって、1人採るか採らないか程度ではないかなぁと思う。全く持って個人的な意見に過ぎないけど。

100人超えて200人にさしかかるところで、やっと2人いるかいないかという会社も案外多いのではないかと思う。あとは会社のビジネスモデルの中身と経営者の意識によるところだろうか*12

詳しい人がいたら、実際どうなのか色々聞いてみたい。ちなみに、全部の会社がコレに当てはまりますという話では決してないのであしからずw

追記

http://d.hatena.ne.jp/kaoru32/20090129/1233205610」でトラックバックいただきました。コメントしましたけど、ここにも書いておくことにします。

「1人雇用するのに1か月仮に25万円の給料だとしても」とあるけど、いくらなんでも、まともな法務担当がこんな給与で採用できるわけがないです。何人も置くなら、若い、あるいは補佐的な仕事をする人(つまり、給料が安い人)がいてもいいかも知れないけど、一人だけならエキスパートであることが求められるので、社会保険その他諸経費込みで、最低でも1000万円といったところじゃないでしょうか。


もうひとつトラックバックいただきましたこちら「企業法務に関する体験談的なもの - 弁護士兼務取締役の独り言」に、まさに私が上記のコメントに対して書こうとした答えに近い事が書いてあるんですが、

で、一般的な会社の話についてですが、法務部がある会社なんてほとんどないです。だって必要ないですから。
たとえば法務部というものを作って3人をそこに配置するとします。一人あたり月に30万支払うとすると、それだけで月90万。月10万払って弁護士と顧問契約結んだ方がはるかに安上がりです。
(中略)
そのためにわざわざ法務部を作ったりするのは、コンプライアンス的には誉められたことかもしれませんが、経営者的には誉められたことではないと思います。深刻なトラブルが起こったときには1万円払って弁護士に相談に行けばいいだけですし、他は普通に話合いで解決すればいいだけのことですから。

・・・ということで、専任法務をとろうかというステージで、1000万円も費用を出して法務を採るかと言えば、上場で商事法務系ぶん投げたいとかいう考えがなければ、まあ、採らないですよね。このステージで出せる金額って、多分、社保+諸費用を除いて、年俸400万円前後がいいところなんじゃないでしょうかね。
だって、はてなのサーバがしょっちゅう落ちて技術者が必要ってのと、法務系トラブルが年1回程度起ったりして予防法務の対応が必要ってのとで、どっちがより採用の必要性が高いかっていう話だと思うんですよね。採用には、優先順位がどうしてもあるし、採用予算は無限にある訳ではないでしょうから、会社への貢献度や影響度が高い現場に投資していくのが自然でしょうし、採用において法務だけにそれだけ特別お金かけるかって言うと、やっぱり、通常の会社はかけない気がします。
でもkaoru32さんがおっしゃる通り、この額では、なかなか腕に覚えのある法務の人は採れないと思う。なので、こういった場合、知人のつてを頼った*13縁故採用が望めなければ、第二新卒か司法浪人クラスを狙った採用になることも多いんじゃないかと思います*14

*1:知財とかコンプラとかもない

*2:追記/ソースは書きませんが、実際専任法務いないみたいですね・・・

*3:まあ最初から株式会社を作る方達もいますけど

*4:必ずしもそうじゃないと思うけど・・・

*5:2つ?

*6:25万と書きましたが、このステージでは月額30万円前後・年俸で400万円前後が妥当なラインと思ってます

*7:大体1ヵ月2〜3時間のタイムチャージ込みで

*8:少なくとも知っている限りではこの金額前後が最低コースのところが多いように聞いている。でも、顧問を頼む弁護士が友人だったり、まだ経験年数が浅い弁護士さんだともっと安いのがあるかもしれない・・・

*9:だから専任法務はまだ雇用しない、というベンチャーの人の発言を何人からも聞いている

*10:または依頼件数が増えすぎて、社内に人を置きたくなったとき

*11:いま迫る危機の切迫度による場合も含む

*12:これも個人的な意見に過ぎないけれど

*13:額が少なくとも意気に感じて入社してくれそうな

*14:実際、某上場ベンチャー数社はこのパターンと聞いている