1つ届けてくれてありがとう

震災以来、会社の代表電話に、お客さんからの問い合わせの電話が激増している。
私も、他の人と同様に、代表にかかってきた電話は出るようにしていて、簡単なことはその場で答え、そうでないことは、お客様のご用件の概要を伺ったうえで、担当の部署へ折り返し連絡をするように依頼している。

そんななか、あるとき、1本の電話を取った。


「頼んだ商品が週末に届く予定でしたが、頼んだうちの1つだけ届いて、他のものが全部届いていないんです。」
「発送遅延のご連絡など、届いていますか?」
「いいえ、特に届いていないんです。配送状況を検索したら、「発送」という表示にはなってました。」


私は、配送業者の遅配だろうか・・・?と思いながら、
「在庫の問題で出荷がされていない(のに遅延に関する事前の連絡が漏れてしまっている)のか、配送途中で滞ってしまっているのか、状況を確認したうえで、改めて、担当部署からご連絡させますね」
地震の影響で、問い合わせが急増していて、ご連絡までかなりお時間をいただいてしまっているようなのですが、遅い時間になってしまうことがあるかもしれませんが、必ず本日中にご連絡をしているようなので、恐縮ですが、お待ちくださいね」
とお客様に、お伝えした。


すると、お客様は言った。
「あの・・・。地震の影響で、電気も点かず、毎日暗くて何かと不便ななか、一つでも商品を届けてくれてありがとうございます。」


そう、お客様は被災地の方だった。
何とか今、家で暮らせてはいるけれど、物資も十分でなく、色々と不自由な生活を送られる中、1つでも必要なものが届くことがとてもありがたく嬉しいことだったと、とてもとても丁寧に感謝の言葉を述べられていた。

私が「こちらこそ、このたびは、商品がちゃんとお届けできず、大変申し訳ありません。本当に申し訳ありませんでした」と、重ねてお詫びを繰り返すと、お客さまはさらに、「とんでもないです。1つでも、届けてくださって、ホントにホントにありがとうございます」と、私に言った。



「1つの商品しか届かない」

これを聞いたときに、苦情以外の内容を想像できる人がどれだけいるだろうか。

このお客様は、それだけ大変な思いをされているんだ、1つたりとこの方に対して、何か役に立ったわけでもない、単に電話に出ただけの私に、何度も何度も、お礼を繰り返すほどに。
そういうことが私なりに理解できた瞬間、私は泣きそうな気持ちになった。

でも、ありきたりの励ましをすることすら、しらじらしい気がしてできず、とにかく、届かなくて申し訳ないというセリフを繰り返し、時間がかかっても必ず連絡しますからねという事を繰り返し伝え、そして最後に電話が終わった。


電話を切った瞬間、ブワッと涙が出た。
仕事中に泣いているのなんて変だから、花粉症のせいにした。幸いにして、私はヘビーな花粉症だから、この季節はいつも何も無くてもよく涙を出していて、目が赤い。



涙が止まらなくて、どうしようもないから、これを書いてみた。
物がある生活を感謝しながら、私たちができることをやっていこうと、思った。