ソフトウェア開発受託と工事進行基準とパフォーマンスベース契約(パフォーマンスベース契約関連の話の続き・その2)

情報システム関係の人とかこれ見とくといいよ - チョコっとラブ的なにか」と「パフォーマンスベース契約関連の話の続き・その1 - チョコっとラブ的なにか」の続きの話です。
id:andalusia さんとのやりとりで、

これ、どうやって工事進行基準やるんだ?

というブコメに対して、私がちゃんと調べないで感覚的に答えてしまって申し訳なかったのですが、その後、8/3のエントリでは、下記のように追記しました。

対価の額に関する定めの一部又は全部が将来の不確実な事象に関連付けて定められている場合で、かつ、信頼性をもって見積ることができるものについては、パフォーマンスベース契約でも、工事進行基準会計基準となると思います。
ただし、信頼性をもって見積ることができないものについては、工事進行基準にはできず工事完成基準となるということだと思います。正確な見積もりができるかどうか、という点にかかっていますよね。しかもフェーズごとの。

これがもし採用されるとしたら実際にはどんな感じなのか、またあとで確認してみますねー*1
会計基準工事進行基準の採用をするかどうかとは別に、部分的に、工事進行に応じた支払いにすることはあると思います。

※一部、正確じゃないなーと思った部分の表記は削りました。

で、ちょっと確認してみたのですが、「「受注制作ソフトウェアにおける工事進行基準適用に関する勉強会」の開催について - 経済産業省(PDF) 」では、こんなことを言っています。(下記の太字は私がつけたものです。)

2.中小ベンダにおける工事進行基準の導入について
一部の中小ベンダにおいては、「従事する全ての案件について工事進行基準を適用しなくてはならない」などの誤解をしているケースも散見され、新会計制度導入に対して不安を感じる要因となっている。また、中小ベンダの中には、「新会計基準の導入によって、大手プライムベンダ、ユーザとの関係で新たな対応が必要になるかもしれない」との憶測もあり、併せて新会計基準導入に対して不安を感じる要因となっている。これらの論点について、本勉強会で整理された内容は以下の通り。

●「中小企業の会計に関する指針」について
「中小企業の会計に関する指針」日本公認会計士協会日本税理士会連合会日本商工会議所企業会計基準委員会)の改訂に対して、「中小ベンダも大手プライムベンダと同様の工事進捗管理をすることが必須になる」、「全ての案件について工事進行基準を適用することが必須になる」などの誤解があるが、本指針では工事完成基準の適用も認めており、中小ベンダにおける工事進行基準適用を必須化するものではない
・また、工事進行基準を適用し、期末に収益を認識した中小ベンダが、発注先から支払いを受けていないにも関わらず課税されるという「担税力」の懸念も指摘されたが、実際にそのような中小ベンダが現れるケースは想定し難いとの認識も共有された。

てな感じで、工事進行の進捗管理をきちっとできる能力があり、当該工事を完成させるに足りる十分な能力もあり、かつ、完成を妨げる環境要因が存在しない(モメて契約が止まったり破棄されたりする要素も全くない)、工事の完成見込みが確実であるベンダでない限りは、工事進行基準の採用は必須とはされないということを経済産業省では言っているんですよね。
まあ、大手じゃなければ心配しなくてもいいということなのじゃないかと、私は思ったりしているのですけど。

あと、パフォーマンスベース契約で、工事進行基準を採用する場合、どうするかという話ですが、1つの方法は、フェーズ単位で測定できるKPIを設定すること。もう1つの方法は、8/3の追記の通り、

その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には工事進行基準を適用することとなっていますが、人月単価で計算するのではなく、KPIで計算する場合、その進捗部分により、設定したKPIの何%に達しているのかで算定する

というやり方を採用することですね。もしかしたら、他のやり方もあるのかもしれませんが、まず、この2つのうちのいずれかの方法を取らざるを得ないのではないかという気がします。


で、他にも、企業会計基準委員会の「工事契約に関する会計基準*2」とか「工事契約に関する会計基準の適用指針*3*4などをチラッチラッと斜め読みしてみたんですが、ヒントの1つはここいらへんにもあるのかもなーと思いました。
下記にズラズラ並べてみましたが、成果の確実性が後で獲得されたり失われたりした場合の考え方はこうですよーということが書いてあります。なので、成果報酬型(パフォーマンスベース)契約か人月型契約かは関係なく、「工事の進行途上においても、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合」は、工事進行基準の契約になりますと。ただし、工事収益総額の算定の信頼性確保がされるかどうか、が1つのカギとなるので、そこが損なわれていれば工事完成基準になりますという感じですね。

成果の確実性の事後的な獲得

3. 会計基準第9 項に定める工事進行基準の適用要件を満たさないため、工事完成基準を適用している工事契約については、その後、単に工事の進捗に伴って完成が近づいたために成果の確実性が相対的に増したことのみをもって、工事進行基準に変更することは認められない(会計基準第55 項)。
しかし、工事収益総額等、工事契約の基本的な内容が定まらないこと等の事象の存在により、工事進行基準の適用要件を満たさないと判断された場合で、その後に当該事象の変化により、工事進行基準の適用要件を満たすこととなったときには、その時点より工事進行基準を適用することになる。

成果の確実性の事後的な喪失

4. 会計基準第9 項に定める工事進行基準の適用要件を満たすと判断された工事契約について、事後的な事情の変化により成果の確実性が失われた場合には、その後の会計処理については工事完成基準を適用することになる。この場合、原則として過去の会計処理に影響を及ぼさない。

  • 工事契約に関する会計基準の適用指針(P3)

成果の確実性の事後的な獲得

13. 会計基準においては、工事進行基準の適用要件を満たさないために工事完成基準を適用している工事契約については、その後に工事が進捗し、工事の完成が近づいたことによって成果の確実性が増した場合でも、そのことのみを理由として、工事契約に係る認識基準を工事完成基準から工事進行基準に変更することは適切でない(会計基準第55 項)とされている。
14. しかし、当初に成果の確実性が認められないために、工事進行基準を適用できないケースの中には、本来、工事の着手に先立って定められるべき工事収益総額や仕事の内容等といった工事契約の基本的な内容の決定が遅れる場合等もあるとする指摘があった。
このような場合であっても、工事収益総額、工事原価総額又は決算日における工事進捗度のいずれか1 つでも信頼性をもって見積ることができないときには、当該工事契約の成果の確実性は認められず、工事進行基準を適用することはできないことになる(会計基準第9 項)。その後、工事契約の基本的な内容が決定されるなど、工事進行基準適用上の障害が取り除かれた時点から、工事進行基準を適用すべきであると判断した。

成果の確実性の事後的な喪失

15. 当初に成果の確実性が認められ、会計基準第9 項により工事進行基準を適用していた工事契約についても、事後的な事情の変化により成果の確実性が失われることも考えられる。当委員会は、こうした場合の会計処理についても検討を行った。
16. 成果の確実性が失われた場合には、工事進行基準の適用要件を満たさないため、それ以降は工事進行基準を継続して適用することはできないと考えられる。したがって、成果の確実性が事後的に失われた時点以降の工事収益及び工事原価の認識については、工事完成基準を適用することになる。
17. この場合、それまでに計上した工事収益及び工事原価の取扱いが問題となる。事後的にみれば、当初認められた成果の確実性が失われた以上、それまでに計上した工事収益及び工事原価の修正を要するという見方もあり得る。しかし、当委員会は、事後的な事情の変化は会計事実の変化と考え、工事収益及び工事原価を計上した時点で成果の確実性が認められていたとすれば、そのような工事収益及び工事原価の認識に問題はなく、したがって事後的な修正は必要ないと考えた。なお、これまで工事進行基準により工事収益を計上したことに伴って貸借対照表に計上された未収入額については、別途、貸倒引当金の設定対象となるが(会計基準第17 項及び第59 項)、成果の確実性が失われるような状況においては、貸倒引当金の見積額を見直すべき場合があることに留意する必要がある。
18. 成果の確実性は、会計基準の掲げる要件が満たされる場合に認められるものであるため(会計基準第10 項から第13 項)、事後的な事情の変化により、それらの要件のいずれかが満たされなくなった場合には、成果の確実性が失われることになる。
19. 事後的な事情の変化が成果の確実性を失わせることに結びつくか否かについては、慎重に検討する必要がある。例えば、為替相場の変動については、工事収益総額や工事原価総額の見積額に影響をを及ぼすとしても、必ずしも成果の確実性を失わせることにはならないと考えられる。

  • 工事契約に関する会計基準の適用指針(P5-6)

なんかまとまり無いままですが、そんな感じで、少しイメージつきますでしょうか?
ではではー。

Q&Aソフトウェア業の会計実務―工事進行基準対応

Q&Aソフトウェア業の会計実務―工事進行基準対応

*1:企業会計基準第15号 工事契約に関する会計基準 9. 工事契約に関して、工事の進行途上においても、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には工事進行基準を適用し、この要件を満たさない場合には工事完成基準を適用する。成果の確実性が認められるためには、次の各要素について、信頼性をもって見積ることができなければならない。(1) 工事収益総額(第10項及び第11項参照)(2) 工事原価総額(第12項参照)(3) 決算日における工事進捗度(第13項参照)10. 信頼性をもって工事収益総額を見積るための前提条件として、工事の完成見込みが確実であることが必要である。このためには、施工者に当該工事を完成させるに足りる十分な能力があり、かつ、完成を妨げる環境要因が存在しないことが必要である。

*2:https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/documents/docs/kouji-keiyaku/kouji-keiyaku.pdf

*3:https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/documents/docs/kouji-keiyaku/kouji-keiyaku2.pdf

*4:https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/documents/docs/kouji-keiyaku/